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【挨拶】金融イノベーションの促進とFinTechセンターの役割第3回・Meetup with BOJにおける挨拶

日本銀行理事 神山 一成
2025年6月6日

はじめに

皆さま、こんにちは。日本銀行の神山です。本日は、フィンテック業界にてご活躍されている皆さまとお話しできる貴重な機会を賜り、誠にありがとうございます。私は、この春より2年ぶりに決済機構局の仕事をすることになり、この場にも参加させて頂くことになりました。どうぞよろしくお願い申し上げます。また、日頃より、Fintech 協会とその会員企業の方には、様々なかたちで日本銀行の活動にご協力を頂いております。この場をお借りして改めて御礼申し上げます。

日本銀行FinTechセンターについて

さて、フィンテックが金融サービスの向上や経済の持続的成長に寄与するものとなるよう、中央銀行の立場からサポートすることを目的として設立された、私どものFinTechセンターは、おかげさまで来年10周年を迎えます。

設立以来、第一に、急激な技術革新のもとでの金融サービスや金融構造の変化を的確に把握すること、第二に、中央銀行サービスにおいて新しい技術を活用するための調査研究を行うこと、第三に、内外の議論に積極的に参画するにとどまらず、幅広い関係者の議論の場を提供すること、を意識して、活動を続けてきました。

本日は、私より、これら3点に即して、日本銀行決済機構局の最近の取り組みを簡単にご紹介したいと思います。

金融サービスや金融構造の変化を的確に把握する

まず、急激な技術革新のもとでの金融サービスや金融構造の変化を的確に把握するという点では、最近注目を集めているトークン化技術に関する調査を精力的に進めています。そうした成果の一部を盛り込んだ決済システムレポートや日銀レビューでは、DLT、ブロックチェーン、スマートコントラクトといった新たな技術への潜在的な期待や実用化に向けた課題の両面を整理しつつ、決済サービスにおいて安全性や効率性を高いレベルで実現していくことの重要性を強調しています。国民にとって、決済が安全・確実に行われること、安心して決済サービスを利用できることは、きわめて重要です。また、決済がいつでもどこでも、迅速に、安価に行えることも不可欠な要素だと認識しています。

新しい技術を活用するための調査研究を行う

次に、中央銀行サービスにおいて新しい技術を活用するための調査研究を行うという点では、まず、一昨年より、一般利用型CBDCのパイロット実験の中で「実験用システムの構築と検証」を進めています。実験用システムの構築作業が終わり、現在は、性能試験などを通じて、社会実装することとなった場合の性能要件実現に向けた技術的な論点や解決策の洗い出し、評価を行っているところです。また、プロジェクト・アゴラに参画しています。この実験プロジェクトは、DLTを用いた共通プラットフォーム上でトークン化された商業銀行預金と中央銀行預金を連携させ、データ管理や規制対応など安全性を確保しながら、現状ではスピードやコストの面で非効率とも指摘されるクロスボーダー決済の課題の解消を目指しています。国際決済銀行が企画・運営するもとで、日本銀行含め7つの中央銀行と各法域の43の民間金融機関が参加しており、国境を越えて活発な議論を行っています。

幅広い関係者の議論の場を提供する

最後に、内外の議論に積極的に参画するにとどまらず、幅広い関係者の議論の場を提供するという点では、先ほど申し上げた一般利用型CBDCのパイロット実験の中で「CBDCフォーラム」の運営を行っています。同フォーラムでは、リテール決済に関する知見を有する金融機関やスタートアップ企業を含む一般事業者など多彩な企業の皆様のご協力を得て、リテール決済に関連した実務や技術に関する幅広い知見などの共有を進めています。

また、関係者による知見の共有は、組織の垣根を超えた関係者の自発的な取り組みにもつながっています。本年3月のFIN/SUM(フィンサム)において開催したイベント「決済エコシステムの未来」では、CBDCフォーラム参加者の有志メンバーが、クラウド上に構築されたサンドボックスを用いたデモンストレーションを紹介しました。今後も、このサンドボックスを活用しながら、エンドユーザーと仲介機関をつなぐネットワークの解像度を上げる取り組みを行うことが、新たに予定されていると聞いています。

引き続き、CBDCを含めた決済システムが、その安全性と効率性を両立させながら、全体としてどのように発展していくかという観点で、様々な関係者の取り組みをサポートしていきたいと考えています。

おわりに

FinTechセンターは日本銀行の決済機構局という部署内にあるということで、決済機構局の取り組みを中心にご説明しましたが、同センターの活動は、先ほど申し上げた通り、フィンテックが金融サービスの向上や経済の持続的成長に寄与するものとなるよう、中央銀行の立場からサポートすることが目的であり、決済機構局の所掌内にとどまるものではありません。そこで本日は、金融機構局、調査統計局、金融研究所の職員も参加しております。

日本銀行としては、外に開かれた拠点としてのFinTechセンターが、多様な知見を有する関係者が集う今回のような機会を活用して、金融実務と先端技術、調査研究、経済社会のニーズなどを結び付ける「触媒」としての役割を果たすよう、引き続き努めていきたいと考えています。本日のイベントの最後に設けている交流会では、是非お気軽に話しかけいただき、皆様にとっても実りある機会にしていただければ幸いです。以上で、私のご挨拶とさせていただきます。ありがとうございました。